「じゃあ……」


途端、がらりと。


櫂は表情を変えた。


「どうすればいいんだよ、俺は」


櫂が、漆黒の髪を大きく揺らして、凍てつくような眼差しで僕達を睨み付けた。


ぴきり。


皹が入ったような音が聞こえた気がする。


「俺の…俺の属性で、何で芹霞が苦しむ姿を見てなければならないんだよ、他にどんな術があるというんだよ、与えられた短い間に!!!」


櫂が崩れる。


それこそが櫂の心、櫂の真情。


「俺は!!! こんなことになる為に今まで生きてきた訳じゃない!!! 俺の、俺の闇は芹霞を守るものであって、滅ぼすものではない!!! どうして…どうしてこんなことになったんだよ、どうして!!!」


落ち着いていたわけではない、それは櫂の命を賭そうとした覚悟だったに過ぎない。


それが否定された櫂は、為す術もなく…咆吼していて。


僕も、泣きたい心地で芹霞を見た。


顔に近くまで侵蝕されている黒い痕。


伸びる気配がないのは、須臾は一応は、宣言した時間まで手を出さずにいるつもりらしい。


それだけ自信があるのだろう。


櫂を手に入れられると。



「"お前が儀式を行わねば、芹霞の邪痕を盾にするだろう"」


不意の女声に全員が顔を上げれば、由香ちゃんが立っていて。


「…姉御が言ってただろ? 皆、"どうして"ばかり叫ぶけど、少なくとも姉御にとっては想定内のことだったろうさ」