「さあ、僕の彼女。彼氏の傍にもっと近寄っておいで?」


痛かった手を外されて、手招きされる。


何だか判らないけれど、ここは素直に言うことを聞いておいた方が身の為のような気がする。


そう思って、玲くんに向けて1歩踏み出した時、


「………」


櫂が、詰るような眼差しを向けて、あたしの腕を掴んで引き留めた。


「な、何?」


「………」


「手、痛いんだけど」


「………」


「櫂ってば」


「………」


困って玲くんを見上げると、


「芹霞。自分で対処しようね?」


ぞくりとするくらい、冷淡な微笑みを向けられて。


震えあがったあたしは、えいえいと櫂の腕を振り払おうにも、櫂は離れなくて。


本当に困り切った時。


「櫂様、玲様!!!

須臾が戻ってきました!!!」


桜ちゃんが血相を変えて飛び込んできた。


そして、


「!!!」


櫂と玲くんが無言で、強張った顔を見合わせた時、



「櫂……ただいま」



堂々たる風情で現れたのは、襦袢姿の須臾で。


いやに艶めいた、乱れた空気を漂わせていた。


そして艶然と笑って、櫂に抱きつこうとした時、


「……俺に触るな」


そう片手で払いのけた櫂が、瞬時にその表情を硬くさせた。


押しのけられた須臾の、解かれた黒髪が舞い上がり…


「な!!?」


その顔の右側には、爛れたような凄惨な…醜い傷痕が大きくついていたから。

至近距離では見るに堪えない、痛々しすぎるものだった。