あひるの仔に天使の羽根を

 
「後発だって…言ったのは、俺が一番先にお前の唇を奪いたかったってこと。競ってなんかない。矜持なんて関係ない。ただ…悔しかっただけだ。お前を好きになったのは、俺が一番始めだったのに」


そして艶めいた端正な顔を傾け、あたしに近づけてきて。


あたしの脳裏に、須臾にキスしていた櫂の顔が思い浮かぶ。


須臾にしたから嫌だとか、そういう類のものではなく……あの時の…好きで好きで仕方がないという、蕩けたような顔が今の顔と重なって。


須臾に向けていた…あたしが苛立つにいいだけ苛立ったあの表情が、絶望の淵に沈められた櫂の態度全てが、もしかしてあたしに今まで向けられていたものなのかなと思ってしまえぱ。


気恥ずかしいのと同時に、嬉しがる自分がいて。


そんな時。


あたしは煌と玲くんを思い出した。


しかも今、あたしは玲くんとお試し中だ。


お試しいえど、他の男に靡いたら駄目じゃないか。


思い出したのは、あたしの理性の成せる業だったのかも知れない。


このまま進めば、復活した櫂との永遠が…変わってしまうと。あたしが今まで否定してきた恋愛が、あたし達の永遠を刹那に終わらしてしまうと。


だからあたしは――


「そういうの駄目!!」


直前で顔を背けた。


途端、曇る端正な顔。


それでも強引に顔を近づけられた時、あたしの上腕は後方から引っ張り上げられて。


視界の斜め上方に、鳶色の髪が揺れた。


「玲くん……」


険しい…というより、無表情な玲くんがあたしの上腕を掴んでいて。


彼の元に荒く引き寄せられたあたしは、やはり彼女としての自覚が足りなかったことを反省する。


優しい玲くんが…怒っている気がする。


纏っている空気が、半端じゃなく…凍えそうに冷たい。


いつものような、春の麗らかさはない。


まるで厳冬期。