「な……」
それは、思った以上の動揺で。
少し顔を引き攣らせて身動ぎすれば、僅かに櫂が目を細めた。
「もしかして…通じてるのか?」
あたしは必死にぶんぶんと頭を横に振り、何も判らないと口笛まで吹いた。
本当に必死だ。
「通じているな?…まあ、ここまで言ったのだし、これで通じないはずはないと思うけど」
それはあっさり見破られ、
「通じてない、通じてない!!! 櫂があたしを恋愛対象にしているかもしれないなんて、全然思っていないし!!!」
あ……。
途端。
櫂の顔が――
嬉しそうに綻んで。
忘れていたあの色気が発動された。
完全不意打ちの、こちらの全てを吸い込みそうな櫂の色気に。
あたしの頭はくらくらする。
――芹霞ちゃあああん。
櫂なのに。
胸が苦しくなるくらいの、衝動を引き起こして。
もっともっと吸い込まれたいと望んでしまう。
「そんな顔……するなよ。理性が…壊れるだろ?」
そんな顔がどんな顔か判らないあたしは、魔法でもかかったかのように、漆黒色の瞳に魅せられて。
熱く…潤んで揺れる瞳に。
「好きだ…芹霞」
どっくん。
一際大きい心臓の音に吃驚して、反射的に身体を仰け反らせたあたしに、そうはさせまいと櫂があたしの両腕を掴んだ。

