「俺とだって、したじゃないかよ!!!」
それは泣きそうな顔で。
「何で俺だけなかったことにするんだよ!!! 俺のが物足りないっていうのなら、してやるよ。玲より煌より、もっともっと激しく、もっともっと深く!! 遠慮や手加減なしの…もう俺しか考えられない強烈な奴をな!!!」
そう唇を強引に押し付けようとしたから、あたしは両手の掌で櫂の唇を押し返した。
「何で玲くんや煌と競い合うのよ、あんたの矜持にあたしの唇を巻き込まないで!!!」
「は!!? 矜持!!?」
「そうじゃない!!! 前に言ってたでしょ、どうして自分は後発なんだって!!!」
「!!!」
「あたし櫂の何!!? いいように利用される、使い捨ての道具!!?」
ぼろぼろぼろぼろ、あたしの涙は止まらない。
櫂の目は見開いたまま、動きは止まっていて。
「あたしがあげた香りは消すくせ、須臾の匂いはべったりつけて!!! 由香ちゃんでも名字で呼ぶのに、須臾には名前で呼んで!!! 他の女は拒否るくせに、須臾だけは隣において!!! どうせ最初から一目惚れだったんでしょ!!! あたし判っているんだから!!! 須臾の術のせいにするな!!!」
「一目惚れ!!? 何だよそれは!!!」
苛立ったような攻撃的な眼差しと怒声に、怯えることなくあたしも言い返す。
「須臾が綺麗だって…口に出して褒めて、じっと見つめていたじゃない!!!」
「は!!?」
慮外だといいたげなその顔に、無性に苛つく。
「宴の時よ!!! そりゃああたしは緋狭姉の妹とも思えないくらい不細工で、いくら着飾っても滑稽の極みだったかもしれないけど、わざわざあたしの目の前で須臾ばかり褒めなくてもいいじゃない!!! 確かに須臾は綺麗だよ、可愛いよ、美少女だよ!!! しかも家柄もいいお嬢様で、紫堂の御曹司とはお似合いかも知れないけれど、だけどデリカシーなさ過ぎ!!!」
「……」
「須臾から櫂を頂戴って言われた時、全ては櫂次第だと…出来るもんならやってみろってせせら笑ってやった直後、どうして簡単に須臾のものになっているのよ、櫂の馬鹿あああ!!!」
もうあたしはわんわん大泣きだ。

