「平凡に生きる為に頑張ってたらしい。痺れ切らした秘密結社が来日したりと外野は煩かったらしいけれどね。持ち前の魔力で、その都度逃げおおせたみたいだけれど。回想録にそんな記述があったよ」
家族愛故に、非凡な彼は世間一般並の慎ましい生活を望んだのだろうか。
「ねえ、玲くん…あのレグの家に、奥さんの気配なかったよね?」
「イクミ曰く、妻は"約束の地(カナン)"に来る前に他界してるって、レグに教えられてたらしいよ」
娘のシキミだけを連れていたのか。
「ねえ、イクミ。本当にシキミの声は須臾?」
故意的ではないにしても、ずっと存在を無視されていた状態のイクミは、少し驚いた顔をしながらも力強く頷いた。
「間違いないです」
「うーん、同一人物なのかな。でもね、シキミは太陽にあてられない病気患っていたのに、3ヶ月後完治出来るもの? 須臾は平気で外出してたじゃない?」
「ありえないことではないだろうさ~、神崎。此の地にはおどろおどろしいブツが平気であるし、尋常ではない力あるんだしさ」
「由香ちゃんは、同一人物だと思う?」
すると彼女は唸って黙り込んだ。
「決定打に欠けるんだよね……」
彼女を代弁したかのように、玲くんが溜息交じりにぼやいた。
「須臾は各務の家に馴染んでいる。3ヶ月前にひょっこり現れたような待遇でもない。しかも"聖痕(スティグマ)の巫子"という肩書きまであるし。桜も、給仕から仕入れた情報に、そういう話題はなかったよね?」
「はい。各務には子供が3人だと…。しかし…刹那という弟が居れば4人ですよね? そう考えれば勘定が合わない……」
桜ちゃんも強張った顔で考え込む。
「だけどさッ!!! 刹那っていう存在を隠したいなら、3人勘定になるよね!? 荏原サンもさ、82歳のレグは教えてくれたけれど、もう1人の刹那は存在は示唆しながらも、言い淀んでいたし。ね、師匠?」
「櫂が地下牢で見たという刹那もいるから、一概に久遠の弟のことだとも言い切れないけれど」
玲くんの声に、あたし達は、うーんと大きな溜息を零した。
「地下牢の刹那は、レグなのかな?」
だったら各務の当主と恋仲?

