「なあ、レグの方は? レグは何で"約束の地(カナン)"が必要だ?」
煌の声に玲くんが苦笑する。
「ここからは僕の推測だけど。
各務翁はきっとレグを追放しながらも、目の届く場所に拘束しようとしていたんだと思う。レグは天使…有翼人種の存在を知っているし、各務翁がそれらを使って永遠の生命を手に入れようとしていたことも知っていた。野放しにしておくには危険な存在だ。しかも彼は魔術師だしね」
「追放された時に、魔術で抵抗しなかったのかな?」
「当然しただろうね。だけど…各務翁には屍食教典儀や、天使の存在があったから、上手くいかなかったんだと思う。それにレグは学者の肩書きもある。学界で妙なことを発表されないよう…学界から追放に"仕向けた"のも、恐らく各務翁によるものだろう。
そうして彼の手元に残ったのは、趣味なのか…或いは後のスキルか…機械のみ。生きる為の術とし、人生を再スタートさせた」
「でもよ、機械に精通しているのなら、ネットか何かで秘密結社でも何でも助け求めればよくねえか?」
「当時、ネットが普及されていなかったことや、各務翁の妨害もあったんだろう。
だけどね、パソコンに残っていたレグの…覚え書きみたいなデータにはね、日本の……東京の地で、妻子と平凡な人生を送りたい旨が切々と書き綴られているんだ」
「平凡な人生、送れるんでしょうか。今更…」
非凡な人生を送っている桜ちゃんの呟き。
傍観者に徹していたのは具合悪いわけではなかったらしく、寧ろ顔色はよく。
玲くんが結界を施したんだろうけれど、それにしても凄い回復力。
どちらを褒めればいいのやら。
髪の短い桜ちゃんは、やっぱり綺麗な男の子にしか見えなくて。
別人がいるような戸惑いを覚えるあたしは、時折、大きな目がくりくりしてあたしに向くのに安心し、ちょっと微笑んでみるんだけれど、なぜか桜ちゃんは、目をそらしてしまって。
強さ第一主義の桜ちゃんは、死の淵を彷徨ったのが気恥ずかしいのかな。
そんなことないのにね、そのおかげであたしは今ここに在る。
後で、助けに来てくれたことをきちんと御礼を言おう。
なかったように流すことだけはしたくない。

