「……っち!! 何だよ、どいつもこいつも…ちょっとばかし特殊な身体してたら、すぐ実験かよ……」


煌の翳りの出来た顔に、あたしは心が痛んだ。


煌は、かつて制裁者(アリス)という殺戮集団に身を置き、紫堂の研究施設で強制的な実験を繰り返されてきた。


今その記憶が薄れて、普通人と同じ生活をしているものの、神崎家に引き取られた8年前の煌の顔は、酷く荒んだもので野獣のようだった。


今でこそ感情豊かであるけれど、あの時の煌は心が壊れていたのだと思う。



「少しだけ……蘇ったことがあったんだ。俺の時…有翼人種がどうのっていう…研究所員の声…」


そんなことを言い出して、煌は大きな溜息をついた。


「誰が実験していたかなんてどうでもいいがよ、誰もが天使…有翼人種っていうのを欲しがるくらい、凄い肉体なんだろうがよ。だけど、緋影や紫堂のように権力に縋って日の光を欲した奴らが派生したわけでもなく、今まで特に人間を害を為したわけでもなく、大それたことを望んでいたわけでもなく、元老院にさえ見つからなかった隠れた街でこっそり余生を過ごそうとしていただろう奴らを、しかも人を助ける優しさある奴らを、何で自分の欲に利用しちまえるんだろうな。人間って…業の生き物だよな」


煌の響きに、誰も何も言い返せなかった。


「ま、お前らに言っても仕方がねえけどよ。

おいおい、そんなシケた顔すんな…って言っても、そうさせたのは俺か。ははは。ほら、気を取り直して、次行こうぜ?」


そう笑って見せた顔に、切なくなったけれど。


煌の凄惨な過去の延長上にあたし達がいて、それが煌の人生に少しでもプラスになっているのだとしたら、煌の過去にも意味があることを祈りたいと思う。