「あら…?」

深幸が何かに気づいて振り向く。

颯太と共に榑市に潜入して以降、彼女はたった一人でこの街の探索を続けていた。

ゾンビという人智を超越した化け物が我が物顔で徘徊する危険地帯と化した榑市。

しかしそんな危険地帯を、深幸は散歩のような足取りで歩く。

警戒心や慎重さといったものは一切感じられない。

それは優雅ささえ思わせるような歩調。

その歩調がピタリと止まる。

(変ね…銃声のようなものが聞こえたんだけど…)

立ち止まったまま遠くを見やる深幸。

彼女の視線の先には、白壁の建物…製薬会社が不気味に聳え立っていた…。