―奇跡―


 なんということか、一時は危篤状態と言われた人に、医学的奇跡が起きたという。


「先生、父が目を覚ましました! 先生!」


 脳梗塞の上、腫瘍を取ったばかりだという。


 それまでは半身不随でひがな横になって過ごしていらしたらしい。


 彼のお父様は、孫、という言葉に目を開き、息子の顔を探し、その名を呼んだという。


 なにを言っているかは不明瞭だが、長いことお世話をなすっていたお母様の通訳で、それとわかったのだそうだ。


「本当は、ご家族以外は入室禁止なのですが」


 と、言われたけれど、当の私と来たら、とるものもとりあえず、身ひとつで来てしまったから、髪の毛はぴょんとしてたし、そばかす隠しのなけなしのお化粧すらもしていない。


 それでも黙って、彼の父親という人を元気づけようと、その手を取らせてもらった。


 咄嗟に、チューブとか、針が刺さっているとかは気になったけれども、子供が、確かにそこに居る、と、感じて欲しかった。


「おとうさま。真李耶と申します。ここに、洋介さんとの赤ちゃんが居ます……はじめまして」


 それからがすごかった。


 回復の見込み無し、と思われ、寝たきりだったひとが、まずしゃべるようになり、苦しい、くるしいリハビリをすすんで行い、支えを得て歩行するまでになられた。


 そして、さあ、退院するぞ、と言い出したのよ。


 すごいと思わない?!


「初孫、見るまで、くたばらん……」


 と、彼はまわりじゅうを驚嘆させた。