「何をしている」
恐ろしく低く響く声。
こんな声、僕たちを叱るときですら出さない。
明らかに苛立ちと怒気を含んだ声だった。
「その手をさっさと離せ」
降れる距離まで来た父様に男は母様の腕をパッと離し、両手を上げる。
そして、その隙を逃さず父様は母様の手をそっと取って自分の後ろに持って行った。
母様は父様の広い背に身を預けてギュッと服を掴む。
「ごめんなさい」と小さく声を上げて謝る母様に父様はただほほ笑む。
そして、目の前の男には母様に向けられた柔らかな表情とは対照的な笑みを向ける。
そう……例えるなら獲物を見据えるような獰猛な笑みを。
「私の妻と何をされておいででしたかな?ワイズ伯爵」
「わ、私は……」
男の声が裏返る。
「これへの寵愛を知っていて手を出すとはいい度胸だな」
柔らかな口調からがらりと変わる。
フッと笑いながら言葉と視線は威圧感を増した。
目が笑っていないから、これは本格的に怒っている。
「お、恐れながらラルフ様、私はお妃様に単なる噂話をお聞かせしただけのこと」
そんな風には見えなかったけど…
「ほお…噂か。どんな噂だ」
「それは……」
父様の問いに言葉を濁す男。

