「父様…母様が……」
ぐすん…とすでに涙を流すレナに父様が「分かってる」と答えながら僕たちを後ろの方へ移動させた。
その表情にはあの柔らかな笑顔も、偽りの笑顔ですら張り付けてはいなかった。
ただ静かな怒りを含んだ表情をして扉のノブに手をかざす。
しかし――――
ガチャ…ガチャ……――――
僕が試した時と同じように扉はノブの音を鳴らすのみで何かに突っかかったように動かない。
チッと苛立たしげに悪態をつく父様。
「ここまでするとは用意周到だな」
フッと口角を上げて絶対零度の笑みを浮かべるその表情はレナには見せられない。
「レオ、これを…」
そう言って父様は僕にはめていた指輪を差し出す。
指輪なんか取ってどうするんだろう…と思いつつも無言でそれを受け取れば…
「本当に…君といると飽きないよ、シェイリーン」
そう言って母様の名を呟いた瞬間。
バリーンッ……―――――
目の前の分厚いガラス扉が砕け散った。
さすがにこの音にはホール内の人々も気づき、バルコニーにいた二人も固まる。
そんな中、ノブの近くの窓ガラス一枚分を粉々にした父様は何事もなかったのように扉の向こう側にあったつい立のようなものを掴み、脇へ放る。
そして、難なく開いた扉を押してバルコニーへ出た。
パリッ…パリッ…と父様が歩くたびになるガラスを踏みしめる音。
その音が鳴るたび、母様の腕を掴んでいる男の顔から赤みが消えるのが目に見えて分かった。

