偽りの結婚(番外編)




バルコニーへ続くガラス扉の前。

僕たちは分厚いカーテンに隠れながら耳をそばだてていた。




「レオ、母様たち何話してるか聞こえる?」

「ううん、聞こえない」


コソコソっと小さな声で囁くレナに首を振って答える。

思いのほかガラスが厚くて、外の声が聞こえない。

声が聞こえない今、外の状況を判断できるのは目だけ。

バルコニーの奥には母様、そして手前には男が立っていた。





「どうしよう…父様に知らせた方がいいかな?」


レナがそわそわしながらそう言う。




「まだ大丈夫だと思う。もう少し様子を見よう」


その問いかけにレナが不安げにコクンと頷いた。




大丈夫……

だってまだ母様に変化はないから。

いざとなったら僕たちが出て行けばいいんだ。

しかし、その“いざとなったら”は突然だった。




それまで穏やかだった母様の表情がだんだんと曇る。

男が一歩一歩近づくたびに顔が青ざめていく。

母様は口を開いて何かを言っているけど、男は止まらない。





「レオ!母様嫌がってる!」


レナが僕の腕をぐいぐい引っ張って訴える。