ただ朝飛自身が納得できる滑りをして、キス&クライで心からの笑顔が出せればそれでいい。その姿を観て喜びを共有したい。
きっとファンも、それを一番望んでいるはずだ。
もちろん俺自身も―――
「とにかくさ、五輪の前に見据えなきゃいけないもんがあるだろ? 未来のことに悩む前に、目の前のことに集中しろ。そんで楽しめ。スポーツは一種のゲームなんだから」
「……この状況と雰囲気で、楽しめっていう方が無理だってーの」
そっぽを向いてツンケンする。
でも口元は綻んでいて、表情にも笑顔が灯る。
やっといつもの朝飛に戻った。SPの時と同じ朝飛だ。
「あ、もう大ちゃんさんの番だよ!」
リンクを指差し、その先を目で追うと、氷の上では既に大介がアップを始めていた。
いつの間にか前半組の演技は終わったようだ。
大介が終われば次は朝飛。そして最終滑走者の俺と続く。