君の言葉に触れるまで、僕の世界は毎日雨模様で、どんよりとした灰色の薄暗い空のようだった。



いくら手を伸ばしても掴むことのできない夢は、どんなに走って追いかけても捕まえられない青い鳥のようで。



僕は、毎日窓枠から見える小さな空ばかり見つめて溜め息ばかりついていた。




冷たい雨が降る日もあれば、優しい雨が降る日もあることに気づかなかった。




君の言葉に触れるまでは。




あの頃
僕はショパンなんて
大嫌いだった。


ショパンを弾くたび
自分の才能の無さや
自分の技量の限界を
思い知らされた。



音を立て崩れていく自信

自分の存在価値さえも
わからなくなっていた。





『鯨魚取り海や死にする
山や死にする死ぬれこそ 
海は潮干て山は枯れすれ』


万葉集の無常を詠んだ防人の歌。


人の命は儚くて、誰にも
気づいてもらえないような

僅かな雨雫のように
草木を潤すことさえ
できないかもしれない。




けれど季節は巡り、生きとし生ける全てに雨は降り注ぐ




ピアノの音が切なくて悲しくて

空が泣いているのか
僕が泣いているのか
わからなかった。