「何?」

「あ、いえ…」


思わず見つめてしまってたあたしは彼の素っ気ない言葉に視線を落とし、小さく呟く。


「座れば?」

「へ?」

「だから座ればって」

「あ、いや、でも…」


どいてくんね?って言われたのにどうして彼は座ればって言ってきたのが分からなく、あたしは途惑ってしまった。

途惑っているあたしに彼はフッと笑い、ズボンのポケットからタバコを取り出す。


「別に座るなとは言ってねぇだろ。ただ、ど真ん中に座られちゃあ俺が座りにくかっただけ」


そう言った彼は咥えたタバコに火を点ける。


「あぁ…そっか。ごめんなさい」


取りあえず彼のお言葉に甘えてあたしは彼が座る少し離れた所に腰を下ろした。

彼が吸っているタバコの煙が鼻につく。思わず少しむせ返ったあたしに、


「あ、悪い」


そう言った彼はまだ小さくなってないタバコを足元に落とし磨り潰した。


「いえ、大丈夫です」


そう告げたあたしを彼はチラっと見て、取り出した携帯に視線を向ける。

静かな沈黙が流れてく。その空間にどうしょうと思ってしまった。教室に戻ろうかとも思ったけど行くタイミングが分からない。

座ってしまった限り、ここから抜けるタイミングが全く分からなかった。


隣に座っている彼は未だに携帯に視線を落としていて、気づけばあたしはそんな彼をチラチラと見てしまっていた。