「…あれ?姉ちゃんは?」


渡された500円玉で、買えるだけのリンゴを持って戻ってくれば、


「なんか、“研究室から呼び出しだ!”とか叫んで出ていったわよ?」


キッチンから顔を出した母さんが、のんびりと言った。


「はあっ?」


…ったく、なんだよ。

絶対に、今日は戻って来ないよ。

急いで買いに行く必要なんてなかったじゃん。

テーブルの上にリンゴの入った袋を置いて、俺は自分の部屋に向かうことにする。

まだ着替えてもいないんだよ。


「あ、そのリンゴ、姉ちゃんのだから。」


念のため、母さんに告げておこう。

勝手に食べようもんなら、また面倒なことになる。


「ハイハ~イ」


聞いてるんだかいないんだか…呑気な返事が返ってくる。

まったく、この家の人間は……


ため息をついて、今度こそ部屋へ…足を進めたとき。


「そうだ、芯。朱李ちゃん、来てるわよ。」


再び、顔を覗かせる母さん。


「あんたの部屋に上がってもらってるから」


……またか。