「詩音、あんた手と足同時に出てた」


「う、嘘っ!!」

顔を手で覆う。

恥ずかしすぎるっ。


「的場ー、これ配っといて」

担任の先生に声をかけられた。

見ると、そこにはクラス分のプリント。

以前の授業で使ったものだ。


「あ、はーい。理沙、はい半分」


島田理沙(しまだ りさ)。いつも一緒に居る友達の一人。
さっき話してたのも理沙だ。


「次は配布係なんかには絶対ならない!」

ぶつぶつ文句を言いながら理沙は私の手から、プリントの束を受け取った。


「ごめん、付き合わせちゃって」

「何気にしてんのー」


ニッコリ笑う理沙。こういう所が、本当に好きだ。


本来なら面倒くさい配布係を選んだのには理由がある。


「あ…」

斉藤くんのプリントやノートを配る為だ。


「お、ありがと」

「い、いや…」


しっかりしろ、私!!


そんな風に自分に言い聞かせても、逃げる様に彼の
席から離れてしまう。


斉藤くんは、いつもお礼を言ってくれる。


ただ決められた係で、当たり前に配ってるだけなのに。

輝かしい笑顔でありがとう、と言ってくれる斉藤くんに私は
いつも心が温かくなる。


配り終えて、すとんと椅子に座った私の頭を理沙が叩いた。


「大丈夫ー?顔赤いよ?」

ニヤニヤしながら言ってくるもんだから、少し大きな声で大丈夫!!と言ってしまった。


「もうっ!」

ごめんごめん、と笑いながら去っていく理沙から視線を外す。


自分の席から2つ隣の席。

───斉藤くんの席。