兄が死んだことで、私の中で何かが始まった。
ゆっくりと、静かに始まりを告げて。

慌しく、そして重い空気に包まれる家。
自分の部屋に入ってベッドに座る。
溜め息が自然と口から出て行く。
携帯を開くと、メールが1件来ていた。

[会いたい]

ただ、それだけ。

こんな時に拓は何を言っているんだろう。
そう思いながらも、何か重要なことを話そうとしているのかもしれない。
抜け殻のような母と父。
私もそんな風に装わなくてはいけない。

何か話をしている両親に見つからぬように家を出た。
そしてメールを打つ。
いつもの道も、変わって見える。
どんな顔をして拓に会えばいい?
待ち合わせ場所の公園までの道で考えていた。

父は気づいている。きっと。
もしそうだったなら。
今度は私の番だと思うの、拓。
家族が死んだというのに、涙ひとつすら出ない私って、どう思う?
冷たいって思う?ひどいって思う?不思議だって思う?
人殺しの14歳なんか、人生終わってるでしょ。
不思議に感じているのは私だよ。

こんなことになるなんて、不覚すぎて分からなかった。

完全犯罪なんて出来るの?
そもそも、完全犯罪って何?
どうやって生きていくの?
考えれば考えるほど、色んな感情が混ざってしまう。

公園のベンチに拓は座っていた。
パーカーのポケットに手を突っ込んで、鼻が赤くなっている。
何も変わらないはずなのに。
「満月」
その隣に座って鼻をつまむ。すごく冷たい。

「どうだった?」
「どうって・・・怖くてしょうがなかったかな」
それは正直な気持ちだと思う。
どう取り繕うか、それだけが心配だった。
どうすれば自然に見えるか。
『兄を失った、かわいそうな妹』に見えるか。
だって本当は『兄を殺した』も同然なんだから。