「うるさいんだよ」

私が言うと、父は一度だけ私を叩いた。
ひどく痛む右頬を押さえていると、母は何も言わず私の元へ歩み寄ってきた。
眉を下げて、何か言いたいような顔。
なんか言いたいなら言えばいいのに。
気遣っているんだろうか。それとも馬鹿な娘と同情されているんだろうか。
そんなことよりも、みんなが待っているところへ行かなきゃ。

日付が変わった頃、いつものように家に帰った。
玄関に入って自分の部屋に行こうとしたとき、リビングから父が出てきた。
面倒くさいことになる。そう感じた私は掴まれた腕を離そうとした。
「離して」
そう言って部屋に上がろうとする。
「お前こんな時間まで何やってた」
階段を数段上がったところで、父が問いかける。
「散歩だよ、散歩」
「こんな遅い時間までか?」
返事をするのも面倒になって、そのまま部屋に入った。
それからも父は何度か質問を投げかけてきたけれど、無視して音楽をセットした。

今日友達から教えて貰った曲。
一度聴いたとき、正直どこがいいんだか分かんなかったけれど、いいと言われたからとりあえず聴いてみる。
部屋の電気もつけず、真っ暗の中で携帯のランプが光る。
携帯を開いてみると、いつも遊んでいる友達からの電話だった。
「もしもし、満月?」
「はいはい」
「今さー紗枝たちと遊んでるんだけど、来ない?」
「行くー」
「じゃあ待ってるね」
それだけで遊びの約束が決まってしまう。
電気をつけて髪を整えると、赤いコートを着る。