俺の姿に気がつくと、口を塞がれていた手を退かし二人が俺の方を向いた。
「拓・・・」
名前を呼ぶ声が震えている。
頭の中が真っ白になって、状況がうまく飲み込めない。
だけど、涙を流す満月と無表情の満月の兄を見れば、どんなに混乱していようとどちらが悪いということなんか一目瞭然で。

「・・・なんだよ、お前かよ」
満月の兄は笑ってそう吐き捨てる。
なんだよじゃねぇよ。お前何やってるんだよ。
満月に何やってんだよ。
何も出来ずに立ち尽くしていると、立ち上がって俺の前に立つ。
「何しに来たの?」
妙に冷たい口調が背筋を冷たくさせる。
「・・・何やってるんですか?」
声が震えてしまうのを抑えて話す。
隠したはずの恐怖を見透かすように兄は笑った。

満月を見ると、顔の所々が青紫色になっている。
口からは血が出ていたのか、血のかたまりもある。
自分の無力さに深く苛立ちを感じ、握っていた拳に爪が食い込む。
その姿を見ていたのか、兄が笑った。

そして次の瞬間、腹部に激痛が走った。
「拓!」
倒れこむ俺に満月が歩み寄るけれど、兄の手で阻まれてしまう。
だけど不思議なことに、痛みは一瞬しか感じられなかった。
「やめてよ・・・、やめてよお兄ちゃんっ・・・!」
ふらついた足で兄の動きを止めようとした。
弱弱しい力で、ふらついた足で。
それを簡単に押しのけると、満月を投げ飛ばす。

「満月・・・!」
机に強く体を打ち、苦しむ満月。
目に溜まっていた涙が何粒も零れ落ちていく。