「じゃあ帰ろうか」
自然に手を繋いで、私は頷いた。
自転車に乗って、また他愛もない話をする。
明日は何時に学校に行こうか?学校サボっちゃう?
動物って好き?将来の夢ってある?
傍から見たら、本当に何気ないことだったんだけど。
二人から見たら、本当に精一杯の言葉。
お互いのことを知りたくて、もっと知りたくて。
けど、何を話せばいいのかなんて分からないから、何気ないことを話した。

「兄弟とかっている?」
「うん、お兄ちゃんが一人いる」
「何歳?」
「大学生で、一人暮らししてたんだけど・・・」
「してたんだけど?」
大学に入ると同時に一人暮らしを始めた兄。
けれど最近、家に入り浸っているということ。
バイトも大学もあるはずなのに・・・。
それについて親は何も触れようとしない。

「・・・へぇ」
「早く言っちゃえば、フリーターだと思う」
「そうなんだ」
少し考えて、言葉にする。
「悩みがあるんだよ」
「悩み?」
「悩みくらい誰にだってあるよ」
「満月の悩みは?」
そう聞かれるけれど、口を閉ざす。

「教えてくれないの?」
「教えない」
「なんで?」
それから何度も『教えて』、『教えない』と繰り返しているうちに私の家の前にまでたどり着いてしまった。