夜中散歩

他の指名客に軽く会釈しつつ、渡月さんが居る席に戻る。
ヘルプでついてくれた女の子に「ありがとう」と言って、交代する。
席へつくなり、渡月さんが言う。

「やっぱりこの店は小雪と真希ちゃんの二人で持ってるね」
「小雪さんは今日、20人くらい回すみたいですよ」
小雪さんを見れば、笑顔でお客さんとお酒を飲んでいる。
「あぁ言う人がいると店の雰囲気が締まっていいよね」
頷く私。
そんな私の視線に気付いたのか、小雪さんが笑った。
綺麗な人。
これがナンバーワンなんだと思った。

それに私も笑い返して、違うほうを見れば他の指名客が何度もこちらを見ていることが分かった。
「まだか」と言わんばかりのその表情。
目線が合う度に愛想笑いをする。

だったら同伴でもしてみろっつーの。
苛立ちを覚えながら作ったお酒を渡す。
Dearestでは、というかほとんどの店ではそうだと思うけど。
同伴客に対しては一番長く席につくようにしていて、例えば他の指名客に対して二十分、席についているとしたならば同伴客には三十分、時間を共にする。
それでも客は客。

「そろそろ・・・」と私が言えば、「えー」と残念がる渡月さん。
「すぐ戻ってきますから」
そう言って、ボーイに導かれるままに他の客の席へとついた。
すぐになんて戻って来れない。
今日だけで何人、指名客が居るのか分からない。
同伴客が一番強いとか、そんなの言ってられないくらいに。