夜中散歩

そして、手に持っていた紙袋を渡月さんに渡した。
不思議な顔をしながら中身を見る。
「この前、お酒こぼしちゃったじゃないですか」
そのお詫びに、と付け加えた。
渡したものはハンカチと、ネクタイピン。

「いいのに、気にしなくて」
そう言いつつも、渡月さんの顔はとても嬉しそうで。
「早めのクリスマスプレゼントと思っていただければ嬉しいです」
「ありがとう、嬉しいよ」
どうして私が今日、同伴相手にこの人を選んだか。
理由は自分でも良く分からなかったけど、朝送ったメールに返信をくれたたくさんのお客さんの中に渡月さんも居たという簡単な理由。
そして今に至る。

「やっぱり真希ちゃんって人のこと良く見てるよね」
「ふふ、人の顔色見て生きてきましたから」
「真希ちゃんってすごくいい家庭に育った女の子みたいだけどね」
この人が本当に拓のお父さんなら、なんでこんな風に話したりしているんだろう。
拓に会いたいって気持ちなんて今更持っちゃいけないのに。
父親でも母親でも、拓とどこかで繋がっている自分で居たいんだと思う。
「そうですか?それは光栄です」
笑ってみせる。つられるように渡月さんが笑う。
笑った顔があまりに拓に似ている。
記憶の中にうっすらと、でも色濃く残る拓の笑顔。

やっぱり、この人が拓のお父さんなのかもしれない。