「チャンスって? そう言えば由佳里、何か言い掛けたよね? 『営業と言えば…』って」

「うん、阿部さんの事よ。ハァー、やっぱりカッコイイなあ」

由佳里は頬っぺたに手の平を当て、夢見る乙女って感じで目を細めた。

「阿部さん? 誰、それ?」

「あんたも見たでしょう? 男嫌いのあんたでも、あの人の格好よさは分かるでしょ?」

「杉下さんじゃない方の人? あんまり顔見なかったから、分かんないなあ…」


店内が薄暗い事もあって、由佳里が言う阿部さんという人を、私はあまりちゃんと見なかった。

印象としては、背がスラッと高くて、顎のラインがシャープで、目が細くて鋭くて、私を見て微かに笑った事ぐらいしかない。

「あ、その人、私の事笑ったよ。何でかな?」

「あんたの食い意地が張ってたからじゃない?」

「えーっ、そうなの? 憎ったらしい!」