「じゃあねぇ、春樹くん。」

母さんが頬を撫でる。

「うん。父さんにもよろしく言ってね。」

「はいはい、ちゃあんと週末には来るからね、無理しちゃだめよ。」


山を下って車で30分も走れば元々の春樹の家がある。

ただ、交通の便がない山暮らしは、しばらくの間働きづめになる両親には不便極まりない。
これから2ヶ月の間は、春樹の体が安定しているだろうということでホームヘルパーを雇うことにしたのだった。


「では、春樹を宜しくおねがいしますね。」

「おまかせください、奥様。」

さっき木立の中で、突っ伏していた春樹をにんまり見下ろした男が爽やかに微笑んだ。


人や車が通って、自然と固まった凸凹道。そこをゴトンゴトンと走る車。見えなくなるまで見送り、春樹はなんともいえない気持ちでいた。




そうして、春樹の新しい生活が始まったのだ――。