とりとめのない話に
コーヒーも冷めてきた頃。


「用事が無かったら、あまりここには来るなよ」

先生は穏やかな口調で言いながら
再び教科書に目を落とした。


「どうしてそんなこと言うの?
会いたいだけじゃない。
先生は教室でも、廊下で会っても挨拶くらいしかしてくれないんだもん」

口を尖らせた。


「誤解されたら困るだろ?」


先生はペンを走らせながら表情なく言った。

「誤解?何それ?

だって他の子とは楽しそうに話しているのに…

私はダメなの?
私は先生にとって困る相手ってこと?」

声が大きくなっていくのが自分でも分かった。


でも、抑えられない…



先生はペンを教科書に挟んで閉じ
体を私の方へ向け直して

「そう言う事じゃなくて…

俺は教師で羽田は生徒だ。
変な噂でも立てられたらどうするんだ?」


諭すように私に話した。


私は横を向き

「私はそれでも別にいい」

ボソッと答えた。



「良くないだろ? 
もう少し考えてみろよ」

先生はイライラしたように
溜息混じりに言って

片肘をつきながら考え込む素振りをした。



「じゃあ、どうして先生は私が誤解するような事をしたの?」



泣きたいわけじゃなかったが
涙をこらえきれなくなった。



そんな私を見る先生の顔は

切なそうで…


何も言ってはくれなかった。





・・・どうして、
  何も言ってくれないの?・・




「もういい。
先生のことなんか知らない!!」


その部屋を勢いよく飛び出した。