【3万㌳シリーズ 1 】天使の生息域

 特に誰とも話すこともなく、地味なフライトになると思っていたが予想外に楽しいフライトになりそうだった。パリ到着は18:00予定だ。

 お互いに見たことのある映画を鑑賞して、主演が若いとか、監督がすごいとか話した。

 ゲームの続きをしたり、途中何度かうつらうつらとして眠ってしまったが、悠真は自分の肩に美羽の頭が乗っていることに何の違和感も感じなかったし、心地よさすら感じていた。

 肩にかけられたブランケットに目を覚ますと、美羽の母親が肩に掛けてくれていた。

「大丈夫ですよ、寒くないです。美羽……さんにどうぞ」

「ごめんなさいね、休みたいだろうに話し相手にさせてしまって」

 美羽を挟んで、声を潜めて二人は話し始めた。

 周囲は灯りを落としていて、読書灯がちらほらと点灯している以外は、地上3万3000フィート、メートルで言うならば地上1000mを駆けるジェットエンジン音だけが支配している。

 悠真の横顔を照らしているスカイマップは、ロシア上空を映していて、カメラに写る景色は何も見えない。

 氷のかけらのようなものがカメラについているのか、それで外の寒さは十分に理解できた。

 飛行機の中と外では気温も気圧も地上とは異なる。気圧は地上の5分の1。気温は-50度。

 地上が1なら、本来悠真達にかかっているのは0.2気圧だ。

 気温を聞いただけでも生存には難しいことは分かる。それでもこうして通常と変わらない状態でいられるのは空調・与圧装置が働いて調整をしているからである。

 与圧装置が機内の気圧を0.75~0.8圧に加圧することで、こうしていられるのだ。

 悠真は度々耳詰まりに襲われたが、それもこの気圧によるものだ。