【3万㌳シリーズ 1 】天使の生息域

 ゲーム中にうつらうつらとして、眠ってしまった悠真を起こしたのは、昼食ではなく美羽だった。

「あの、PSP落としそうだよ」

「え?あ、あぁ……、あぁ、ドーモ」

 悠真はひっくり返ったような声で、まとまりのない返答をした。

 美羽がまさか声をかけてくるとは思わなかったし、想像よりかわいらしい声だった。それどころかくるくると黒い目が輝いて、悠真を見つめている。

 悠真は耳抜きをして、手から落ちそうになっていたPSPを前のテーブルに置いて時計を確認した。

 フライトからまだ2時間。飛行状況を見るとまだロシア上空に差し掛かった程度だった。

「フランス何度め?」

「えっと、2回目? でも1回目はほとんど覚えてない」

「そっか、じゃあ私の方が先輩だね。5回目!」

 フライトまでの無反応は何だったのか、美羽はどこにでもいるような明るい女子高生らしい仕草でにこにこと悠真との会話を楽しんでみせた。

 美羽の隣の母親は、アイマスクをして身動きをしないので、早々に眠りに落ちたのだろう。

「年が近い人が隣でよかった。おじさまとか変な人だと緊張しちゃうし」

「いや、変な人じゃないかは、わかんないんじゃない……」

「そのゲームをやってる人に、悪い人はいませんっ。モコレス3、最強パズルゲーム」

 悠真がプレイしていたゲームを指さすと、美羽は「何面まで行ったのか」と次々話しかけてくる。

 客室乗務員が飲み物を持ってくると、悠真の分まで受け取ってくれた。