【3万㌳シリーズ 1 】天使の生息域

「飛行機の隣の席……同い年の女の子と一緒だったんだけど」

「可愛かったのか、ラッキーだったな。連絡先はちゃんともらっておいたか」

「そうじゃなくて、フライト前とフライト中の印象が全然違くて、病気だって聞いてさ……」

「フランスに治療に来たのかな」

「そうかも、フランスは5回目って言ってた」

 会話はそれだけだった。

 パリ郊外のアパルトマンで悠真の母親と再会して、食事に出かけてしばらくすると悠真は美羽のことを忘れてしまった。

 帰りの飛行機に搭乗するまでは。
 
 また美羽と一緒になったわけではなく、飛行機に乗るという行為で思い出したのだった。

 帰りの飛行機で悠真の隣に座ったのは、団体観光客のグループで、悠真に話しかけてくることはなかった。

 退屈で、長くて、一人きりのフライトだった。

 日本に帰ってきた悠真は、祖父に迎えられて家に帰ったが当然一人だった。

 祖父はとなりの市に住んでいて何かあれば駆けつけてくれるが、悠真は今一人だけ。

 他人が隣に座っていないだけで帰りの飛行機と何の変化もなかった。

 両親は一ヶ月後には帰ってくるが、この疑似一人暮らしも一週間で飽きた。

 一人きりの悠真のケータイがメールを受信したのは、その日の夕飯のカップラーメンにお湯を注いでいた時だった。