【3万㌳シリーズ 1 】天使の生息域

 15時間の束縛から放たれて、悠真は気圧1の地上を見下ろした。

 離着陸の際にひどく揺れたが、無事着陸する。機長の挨拶とパリの天候が機内で放送される。外は薄雲りの夕方で、夕日が傾きはじめていた。美羽はまだ寝ている。熟睡して着陸時のシートベルトも母親がやっていた。

 これで美羽ともお別れだ。最後に話をしたかったのに美羽は起きる様子はなかった。

 つれない。

 手荷物を整理して立ち上がろうとすると、つんと悠真のパーカーが伸びた。

 どこかにひっかけたかと視線を投げると、パーカーの端を美羽が掴んでいた。

 そっと手から解き放ち、母親に長いフライトに付き合ってくれた礼を言い、客室乗務員の笑顔に見送られながら飛行機を降り立った。

 シャルル・ド・ゴール空港。

 ここはパリではないけれど、フランスの香りは日本とはまた違って高揚感があった。

 ターンテーブルでスーツケースが流れてくるのを待っていると、美羽と母親の姿をみつけた。

 母親と視線があって、無視するのもおかしかったので会釈をする。

 美羽は椅子に座ったまま悠真に何の反応も示さない。

 よく見れば美羽は車椅子に座っていた。

 悠真はそれに気づいて母親の元へ向かい、飛行機で体調を崩したのかと問いかけた。母親は変わらぬ表情で、ただ

「違うのよ」

 とだけ答えた。