師範は酔いが回って来ると上機嫌になり、ひたすら喋り続けていた。


ふとキッチンの方から携帯が鳴るのが聞こえたが、忍は出ようとせず数コール後で切れた。

しばらくすると再び着信音が聞こえた。


「出ないの?」

「今手が放せないの…
右京出てくれない?

エプロンのポケットに入ってるの。」


そう言って粉だらけの両手を上げた。


俺は後ろから忍のエプロンのポケットに手を入れて携帯を取り出しながら腰を抱き寄せて軽く首筋にキスをした。


「今の仕草かわいかった。」

「もう!からかわないでよ~

それより電話!」

「はいはい。」


俺は画面を見ずに通話ボタンを押した。


「はい。」

『あ…あれ?黒崎さんの携帯じゃなかったですか?』


電話の相手は男性で俺が出た為ビックリした様子だった。


「そうだけど…忍に何か用?

今手が放せないらしい。」

『そ…そうですか…』

「ちょっと待って。」


俺は忍の耳に携帯をくっつけた。


「持っててやるよ。」

「え…ありがと。
…もしもし?」

『あ…黒崎先輩ですか?

俺、同じ大学の早川です。』

「早川くん?」

「あいつか~どっかで聞いた声だと思った!」

「右京、うるさい。黙って!

で、何?急用?」

『あの…今日…会えませか?』

「今日は無理!忙しいのよ!」


あまりにも冷たい言い方の忍に思わず俺は吹き出してしまった。