慌ててバタバタと逃げるが年寄りとは思えぬ動きで追いかけられた。

道場に着く前に何度となく繰り出される殺人技を紙一重で避ける。


「ちょっ!…死ぬって!」

「問答無用!二度死ね!!」


意味の分からない事を言いながら切りかかって来る師範の木刀を素手で止める。

ホッとしたのも束の間、会心の蹴りを腹に受け吹き飛ばされた。


何とか道場までたどり着いたが、丸腰の俺はかなり不利で今日も朝からボコボコにされたのだった。



さすがに生傷だらけになった体はシャワーすらキツかった。


「まさに天国と地獄だ…」


そんな独り言を言いながら台所に入ると、朝食を作る忍がいた。

忍は俺を見て驚いた。


「その傷どうしたの!?」

「また惨敗した…」

「今日はいつも以上に酷かったのね…」


そう言いながら絆創膏を取り出すと俺の頬にある傷に貼ってくれた。


「塩でも塗っとけ!色魔天狗め!」


後ろを通り過ぎた師範が吐き捨てる様に言ったのを聞いて、忍は真っ赤になった。


「…バレたの?」

「ん…寝ぼけてて要らんこと言った俺が悪い…」


すまなそうに笑う忍の頭を撫でると「そういえば…」と俺は忍の耳元に顔を近付けた。


「昨日の忍、最高に良かった。」

「なっ…朝から何言ってんの!?」


真っ赤になった忍を見て笑いながら朝食を運んだ。