さよならさえも、下手だった



そしてこうも言った。


「汚してやりたい」


その手が俺の頬に触れる。

その手に付いた家族の誰かの血が俺の頬にも付く。
ぬるりと、生々しい感触がした。

あまりの恐怖に、悲鳴を上げることもできなかった。


「お前、名前は?」

自分の名前を名乗ると、彼は鼻でそれをせせら笑った。

「そんな腑抜けた名前はいらない。
…そうだな。お前、今日から夜十と名乗れ」


夜十という名前はあまり気に入っていない。
この名前を使い続けている限り、俺はきっと刹那の罠から抜けられない。


「俺と来い、夜十」

けれど彼が夜十と呼んでくれたのはそれ一度きりだった。

組織につくなり俺には1004という番号が振りあてられ、刹那はそれ以外の呼び方で俺を呼ぶことは無くなった。