さよならさえも、下手だった



男の父親は病を患って自室で寝ているということだった。

合鍵を預かって男の実家へ向かう。


凝った装飾の施された襖の前で、手中の銃を握りなおす。

音を立てないように襖を開けると、布団の中で目を閉じている男がいた。
今回俺が殺す人物で間違いない。

その心臓に銃口を突き付け引き金を引こうとすると、不意に彼が目を開けた。


空洞のように光のない目と視線がぶつかる。

やせこけた頬がわずかに動き、カサカサに乾いた唇が弱々しい言葉を繋ぐ。

「…おれは、しぬのか」

そうだよ、と言うこともできず黙っていると、彼は小さく笑った。
その顔は俺に依頼をしてきた男の笑顔とよく似ていた。


「しにがみというのは、きれいなものだな…」

死神?
俺が?

困惑する中で人差し指に力を込めると、彼はすぐに動かなくなった。


後に残ったのは虚しさだけだった。