さよならさえも、下手だった



だけど俺には、そんな風に幸せをかみしめることさえ許されてはいない。


「…音都。俺は夕方頃まで出かけてくる。お前はここにいろ」

《なんで?》


そう質問が書かれたメモ帳から、思わず目をそらしたくなった。

「また昨日みたいに危険な目に遭いたくないだろ?」

音都は少し考えた後、小さく首を振った。


だけどそうされて連れていくわけにはいかない。

「いいから待ってろ」

突き放すように言って立ち上がろうとすると、ぐいっと服の裾を掴まれた。
振りかえると、不安そうに俺を見上げる音都がいた。


頼むから俺に懐くな。
もっと怯えてくれ、怖がってくれ。

あたたかく接されるたびに、息ができなくなるんだ。

刹那と話すときとは違う苦しさが込み上げてくるんだ。


俺は「普通」なんて、知らないから。