初めてここに来た音都よりも、緊張しているのは俺の方だった。


ここにはほとんど帰ってこない。
帰ってくるときといえば依頼を遂行した報告をするときぐらいだ。
それ以外はほとんど外で寝泊まりする場所を探している。

あいつがいなければいいんだが。



「帰ったか、1004」

低く夜に沈むような声。
重苦しいその声は、一瞬にして俺の体から自由を奪った。

緊張と恐怖の間のような、得体のしれない恐れ。

「夜十だっての」


音都をドアの陰に隠し、震えを精一杯押さえながら何とかそれだけ言う。

彼はここのボス、言うなればこの世界で最も影の濃い部分にいる王だった。


名を、刹那(セツナ)。