「あんま無理しちゃいけないよ、食べるもの食べなきゃ」
「それだと太っちゃうでしょ?嫌だよ」
「でもさぁ」
心配してくれているんだろうと分かっても、自分のしていることは正しいと思った。
「とにかく、痩せたいの」
手に持っていたサンドイッチを返して、机に顔を伏せる。
「でも、食べないと痩せるってもんじゃないよ」
「じゃあ、このままどんどん太れって言うの?あたしこんなだよ?これ以上太ったら本当生きていける自信ないよ」
「それとこれとは、話が違うよ」
結局答えが出ない言い合いみたいなのはいやだ。
それよりもそこまで言える労力も精神力も力尽きている。

「そのままでいいと思うんだけどな」
唇を尖がらせて言う。そういう言葉が一番痛いのだ。
このままじゃ駄目だって。
「それは大丈夫」
鞄の中から取り出す。机の上にぽん、と置くとちひろは目を向けた。
「野菜ジュース?」
「そう、せめて野菜ジュース」
肌荒れしやすいと書いてあったので、せめて補おうという感覚。
おかしいのか、当たってるのかもわからない。
「・・・倒れても知らないよ?」
「大丈夫」
倒れないから、と付け加える。
眉をひそめていたちひろだけど、それ以上は何も言ってこなかった。
言われても困るっていうのが本音だけど。

その日の昼は野菜ジュースを口にしただけ。
動いたら本当に倒れそうだから、ほとんど席から動こうとしなかった。
そして夜も控えれば、体重が減っている。
そのことだけを期待して、いつもより長く感じる授業を切り抜けた。

痩せたら、可愛い服を着よう。
来年の夏には、行けなかった海に行こう。
欲しかったワンピースを着よう。

いい方向に考えれば、少しでも思考が上向きになっていく。
そう信じて、定期的に襲ってくる空腹を耐え忍んだ。