いばら姫と王子様 ~AfterDays~



「……どうした、芹霞?」



櫂の漆黒の瞳が、不安そうに覗き込んでくる。


――芹霞ちゃあああん!!


可愛い櫂。


8年前の面影はないけれど、あたしの大事な幼馴染。



――り。



永遠を約束した唯一の幼馴染。



――せり。



唯一の――?



胸に込み上げる、妙な不安感。


既視感(デジャヴ)のような不可解な惧(おそ)れ


隠すように、祈るように。


あたしはペンダントを握りしめて笑った。


「……ううん。今が楽しいなって」


「そうか?」


そして櫂は少し笑いながら屈むと、


「もっと……愉しませてやるよ」


そう、耳元で囁いた。


「最高の悦楽を……お前にやる。だから……」


耳元に拡がるその甘い声音に、あたしは――


「どうして芹霞が赤くなって固まっているんだろうね、櫂」


玲くんの抑揚がない声が聞こえてきた。


「……櫂。明日だからなッ!!!」


煌が腕組みをして、何故かあたしを睨んでいる。


櫂は大きく溜息をついて漆黒の髪を掻き上げ、あたしを見た。


どこまでも甘く――


どこまでも悲しげな切れ長の目。