「我慢?」
何の我慢?
「そうだ。その我慢も明日になれば解禁だ。
――愉しみにしてろよ?」
櫂が超然とした空気を纏ってにやりと笑う。
「た、愉しみ?」
あたしは思わず1歩退いた。
「そう。まあ一番愉しみなのは、僕達だけどね」
玲くんも意味ありげに笑う。
「恨みっこなしていうことで」
煌の褐色の瞳も、挑戦的に瞬いた。
何――?
皆何でこう、好戦的なの?
明日――。
あたしどうなっちゃうんだろ。
あたしはよからぬ予感に戦いた。
家に帰りたい。
早く家に帰って、お風呂に入って、ゆっくりしたい。
あたしは庶民だ。
根っからの、平和を愛する庶民の女だ。
天下無敵の御曹司。
その御曹司の従兄で参謀役。
その御曹司の護衛役の飼い犬。
そして傍観者に徹する女装した美少年。
非日常的世界に棲まう美貌の彼らは、あたしの幼馴染なだけで。
本来ならば交じ合うことさえ、奇跡的な彼ら。
庶民にとっては殿上人。
一緒に居てもいいのだろうかと時々自問自答してしまうけれど。
それでも思うんだ。
一緒に居たいと。
手放したくないんだ。
邪魔されたくないんだ。
もう誰にも。
誰にも――?

