「"給料の3ヶ月分"って何?」
「あ~、芹霞は何にも考えねえでいいから。こっちの話」
「? 何かさ、"給料の3ヶ月分"って結婚指輪みたいだね」
一般論を言っただけなのに、
「そんなわけねえだろッ!!! 大体それ、石コロだけだろうがよッ!!!」
煌に怒ったように否定されてしまった。
「そうそう、すっ飛ばしてはよくないよね? ちゃんと段階踏まないとね?」
途端玲くんは、破壊力ある笑顔を向けてきて、あたしはくらくらしてしまった。
よろけるあたしを支えたのは、シトラスの香り。
ふわりと、あたしを優しく受け止めながら、櫂は言った。
「……芹霞。お前、玲の金緑石(アレキサンドライト)を守護石にするのか?」
"玲の"をやたら強調させてくる。
何かを探るような漆黒の瞳と、有無を言わせないような強さを向ける鳶色の瞳を見比べながら、
「多分……。何年かかるか判らないけれど、地道に交渉して分割払いにして貰うつもり…」
何かを言いかけた玲くんを手で制したのは櫂で。
「少し早い…担当医からの退院祝いとでも思って受け取ってやれ」
櫂までもが、玲くんに同調してしまった。
玲くんも、少し吃驚しているようだ。
「その代わり……これも身に付けろ」
櫂がポケットから出したのは、自分の血染め石(ブラッドストーン)で。
曰く付きのその石は、あたしの記憶よりもかなり小さくて。
「2つに割れたんだ。1つは俺が持っている。だからお前は片割れを常に持っていろ。今まで通り、闇からお前を守るはずだから」
これは元々はお前のものだから――。
そう弱々しく声音を響かせた櫂は、酷く悲しげな顔をあたしに向けた。
ずっと――あたしを護り続けてきた櫂の心を思えば、あたしは拒否なんか出来やしない。

