退院を明日に控えた午前中。
病室での昼前というのは、来訪者がいなくて比較的暇だ。
「ん~、結構一杯あるもんだな~」
あたしは応接セットの椅子に腰掛けながら、分厚い本のページを捲りつつぼやいた。
「あれ、芹霞。読書中?」
隣室から出てきた玲くんが、にこやかな顔で横に立った。
「弥生に言って、この前買ってきて貰ってたの」
『パワーストーン辞典』。読み応えがある分厚さだ。
「皆、守護石持っているじゃない。玲くんは月長石(ムーンストーン)、煌は太陽石(サンストーン)、桜ちゃんは黒曜石(ブラックオニキス)。櫂は血染め石(ブラッドストーン)でしょ?
あたしだって欲しいもの、皆と同じように。だけど色々ありすぎて、意味も多すぎて……」
玲くんはふわりと微笑みながら、あたしと一緒に写真入りの本を覗き込んだ。
「守護石はね、直感で選ぶものだよ。意味など後でついて回るもの。色が良い、形が良い……芹霞は本を開いていて、まず何が目に入ったの?」
あたしは本のページをぺらぺらと捲った。
「これ――かな。色が変わるっていうのが面白くて」
あたしが指を差したページを見て、玲くんは頷いた。
「金緑石(アレキサンドライト)か。これは元々は黄色い色をした石なんだよ? アレキサンドライトはその変種だ」
玲くんは辞典の中の1つの写真を指差した。

