――ねえ芹霞。その傷、誰にも触れさせないでくれないか。


――僕だけにちゃんとその傷を見せてよ。


嬉しかったんだ。


彼が医師であろうとなかろうと、彼自身で傷の…贖罪の領域に踏み込んでくれたことに。


あたしは弱くて浅ましい人間だから。


彼が切なそうに傷に触れる度、あたしはその罪の共有の瞬間に、少しだけ救われた気になる。


玲くんも居てくれるって。


玲くんも一緒に苦しんでくれているって。


あたしは1人じゃないって。



――ぎゃははははは。


ねえ、陽斗。


少しずつ、少しずつだけど、前に進んでいこうと思う。


あたしが1人なら、陽斗も1人になっちゃうものね。


あたし達は一心同体だから。


あたし、陽斗にもっと色々見せたい景色があったんだ。


もっと、もっと――。



あたし笑うから。


陽斗が一緒に笑えるように。



だからね、今少しだけ――。


玲くんがいる間だけ。



哀しませてね。


赦してね。



玲くんは、看護師も他の医者にも一切、あたしを診せさせなかった。


傷痕の触れ合いは、完全あたし達2人だけの秘め事で。


退院が決まった時、玲くんは少しだけ寂しそうに笑った。


別に、これであたし達の仲が終わるわけではないのだけれど。