就職して一ヶ月と少し。
あたしは胸を張ってネイリストとは言えない、微妙な気分の中にいた。
毎日毎日、閉店後に練習しているのに、進歩している気がまったくしない。
与えられた課題を終わらせる時間が全然早くなってなかったり、早く仕上げようと頑張れば雑になってしまっていたり、その他いろいろと散々な結果になっている。

店長や先輩からすると、

「小菅さん、充分上達してるよ?焦らない、焦らない」
とか、
「肩の力抜いて一歩一歩ゆっくりでいいんだよ」

とか言ってくれたりするんだけども。

確かに焦っているなあとは思うし、一気にレベルアップできないのもわかってる。
ただ、早く一人前のネイリストになりたいだけだ。

自分で、好きで選んだ道なんだから。
みんなが、あたしの道を照らしてくれたんだから。

頑張れるときに頑張らないと、だめなんだ。そして、今が頑張りどきなんだ。
へこたれそうになるたび、あたしはそうやって自分に活をいれる。
言い訳しないように。
甘えないように。

もちろん、もともとへこたれやすいあたしがここまで頑張れている理由は、他にもあった。というか、メインディッシュは豪華に、何種類も用意されていたのだ。

こ、い。
うひゃ。
あたしは、
へ、ん。
きゃあ。

何度、ヤバい、と首を振った事か。落ち着け、と自分に言い聞かせた事か。

しかし、この浮かれたあたしを止められるあたしはどこにもいなかった。
そりゃそうだろう。
なんせあたしというあたしが全て、恋の戦闘準備のほら貝を鳴らしていたのだから。