「まず始めに、自己紹介をしましょうか。私の名前は夕霧弘道(ゆうぎり、ひろみち)と言います。38歳です」


私より、年下だとは思っていたけれど、まさか一回りも違うだなんて…。軽くショックを受けた私の気持ちに、気付いていない夕霧さんは、自己紹介を終えると会釈をしてきた。


「私は、草壁由紀乃(くさかべ、ゆきの)と申します。…年齢は48歳です」


「へぇ…私より、年上だったんですね。若く見えたので気付きませんでした」

私の年齢を聞いて、少々驚きを隠せない様子の夕霧さん。


「え…えぇ…」

何となく気まずくなり、苦笑いをした。


お互いに、少々無言になったものの、この沈黙を破ってくれたのは、夕霧さんだった。

「話は後にして…注文を頼みましょうか」

そう言って、窓際側にあるメニュー表を掴むと、私の目の先に向けてきたのだ。


「え…」私が戸惑っていると、夕霧さんは、ニッコリ微笑むと言葉を続けた。


「レディ・ファーストですよ」


…ドキンと、胸がときめく。


私はメニュー表を受け取る手が震えてしまった。