ドアを開けるとカランカラン、と音をたてた
店内を見渡してすぐ、栗田咲子は見つかった

「遅くなってすみません」
「いいえ、私が早く着いちゃったものですから」

栗田咲子は前と比べて顔色も格段によくなっていた
前会ったときも若いと思ったが、今会うと更に若いな、と思った

ウエイトレスが来て、隆志はコーヒーとサンドイッチを頼んだ

「お昼がまだなんで、食べながら聞いてもいいでしょうか」
「ええ、もちろん」

栗田咲子はそう言うと、一拍置き、「で、話なんですが…」と切り出した

「これなんです」

咲子はカバンから文庫本サイズの本を取り出した
隆志がそれを手に取り、眺めてみると、本の真ん中にはDiaryと書いてあった

「日記ですか…」
「美咲が死んでから、あの子の部屋を掃除したら、これが見つかって…」
「拝見してよろしいですか」
「どうぞ」

開くと、ボールペンで綺麗に一日一日、しっかりとその日の出来事や、美咲の感情が書き込まれてあった

隆志は少し感心した
俺なんて、三日坊主どころじゃない

「それで、このページを見てほしいんです」

咲子は付箋の貼ってあったページを開いた

『9月5日 デパートにクラスの男子がいた。部活の打ち上げかなんかみたい。その中にいた先輩、タイプ♪♪』

「付箋を貼っているところ…全部読んでください」
「読んでいいんですか」
隆志がそう聞くと、咲子は力強く頷いた

『9月7日 今日、廊下であの先輩とすれ違った。やっぱりカッコイイ!』
『9月8日 帰りの電車で先輩と会った★先輩とゆっくり話せた!同じ電車だったんだ~』
『9月11日 今日は先輩が練習してるの見れた^^カッコイイ~』
『9月13日 先輩、彼女いるのかな??今日…なんかチョーかわいい子と話してた…ショック↓↓』
『9月14日 気づけば、先輩のこと目で追ってる…あたし、好きなのかな??ただの憧れと思ってたけど…』
『9月18日 先輩、彼女いたんだ…』
『9月20日 好き好き好き好き好き』
『9月21日 先輩に告ろうかな』
『9月22日 毎日、先輩のことばっかり考えてる…でも、彼女いるんだよ…』

これが最後の文だった
最後は、涙で濡れて字がにじんでいた