その夜は思っていたよりも熟睡してしまったかおる。
起きてみれば、
隣で眠っていたはずの孝史の姿はなく、
隣の部屋も布団はそのままだが空っぽだった。
テーブルの上に置手紙が…
6時までには戻ってきます、と書かれていた。
6時… もう8時過ぎだ。
急いで着替えしたかおるは、
まだ敷かれたままになっていた布団を押入れにしまい、
声の聞こえる台所へ行ってみた。
食事室では、朝食を運んだり片付けたりしている多恵さんが忙しそうにしていたが、
その奥の台所では、
三人が何かを覗いて満足そうな声を出している。
そしてかおるの顔を見ると、
皆嬉しそうに朝の挨拶をして来た。
「お姉ちゃん、僕たち海へ出て魚を釣って来たんだよ。
僕初めてなのにこんなに釣れた。
銀杏丸はすごいよ。
魚のいる所を教えてくれるんだよ。
これで今晩は魚料理のご馳走だ。
僕たちの分も十分あるって。
干物にする魚も沢山あるよ。
朝ごはんを食べたら僕も手伝うんだよ、なあ、鳶人。」
「はい。にいたんといっちょ。」
すっかり孝史になついたように、
鳶人は兄ちゃんと言えなくて、にいたん、と呼び、
あの涼しげな瞳を輝かせている。
そんな二人を父は目を細めて嬉しそうだ。
かおるは、
孝史と鳶人の親しみ溢れる兄弟の様子に、
またもや昨夜の鳶の話を思い出している.
それでもこの雰囲気は嫌ではなかった。
孝史といる事で鳶人の嬉しそうな顔、
それはかおるも理解できる事だった。

