「お姉ちゃん、僕の気持ちは決まっているよ。
確かにお姉ちゃんが思っているように、
母さんと別れてすぐに他の人と結婚して子供、
鳶人が生まれたなんてショックだけど、
僕はあの鳶人ならいいよ。
鳶人を生んだ人がどうなったか分からないけど、
父さんの記憶が無いのだから仕方が無いよ。
父さんは赤ん坊の鳶人だけを連れてここに来たのでしょ。
警察に言ったのに何も起こらなかったのだから、
その人はその時点で死んでいたのだよ。
落ち着いたら母さんのところへ行って話すよ。
そして許してもらおうよ。
同じ父さんの子供として一緒に暮らす事、
母さんならきっと許してくれるよ。
父さん、昔と同じで優しい。
僕は… すごく嬉しい。
新学期が始まるまでに手続きをしてもらって、
こっちの学校へ変わりたい。
明日からは僕、
父さんの手伝いを出来る限りする。
父さんとあの人だけでは大変そうだ。
お姉ちゃんもそうしようよ。」
「・・・」
父の姿が消えると、
孝史はかおるに自分の気持ちを伝えた。
隣の部屋では鳶人がテレビに夢中になっていたが、
すぐに眠そうな顔になり、
銀杏丸に寄りかかっている。
それで孝史が、
聞かれる心配はないと、
かおるに声を掛けたのだ。
しかし,かおるの返事は無かった。
「僕、鳶人を連れてお風呂へ行ってくる。
あのままだと寝てしまいそうだから、
風呂に行ってくるよ。
お姉ちゃんも入ったら。」
かおるの返事を諦めたように、
孝史は隣の部屋に入り、
勝手に引き出しを開け、
鳶人の着替えを用意して風呂へ向かった。
小さくて古い宿だから
風呂場の位置は大体分かった。
初めは、孝史に声を掛けられ緊張した様子の鳶人だったが、
一緒に湯に浸かる頃にはすっかり打ちとけ、
楽しそうに孝史にまつわり付いて来た。
幼児性の強い4歳の鳶人、
4歳にしては発育が悪い、
と小学生の孝史でも感じていた。

