「そんな時にこの柳井さんが現われて、
私たちはこうして暮らしていけている。
女将さんも天涯孤独になってしまっていたから遺言で、
この宿は柳井さんが引き継いだ。
そう、今では何でもしなくてはならない宿の主人をしているよ。
ただし身寄りも行き場も無い私をも含めて、と言う条件だけどね。
それで正確には、
今はこうして三人でやっているけど…
あんたたちが柳井さんの子供だと言う事は分かるよ。
このおにいちゃんは柳井さんにそっくりの目元だ。
おねえちゃんはお母さん似なんだろうね。
来てくれて嬉しいよ。」
初めは慌てて話しかけた女だが、
今は二人に大体の経緯を話してほっとしたような顔をしている。
名前は木村多恵、と名乗った。
還暦を迎えた六十歳だそうだ。
「本当に私の子供…
鳶人の他にこんなに大きな子たちが… 」
たとえ記憶が無くても、
2人を前にしていれば何かを感じたのだろう。
父は感慨深げにそれだけ言って涙を浮かべた。
隣では怯えたような顔をした鳶人が、
涙ぐんでいる父親を見上げ、
それから前に立っている二人を見た。
その時初めて、
父の後ろで隠れるようにして立っている小さい男の子を、
はっきり鳶人の顔を見た2人。
それまでの親子の対面による、
感情のもつれや興奮もどこかに吹っ飛んだように驚いた。
ギナマ…
いや、ギナマと同じ雰囲気を持った幼い少年…
色白で生まれたばかりの赤子のように澄んだ瞳の
痩せた少年が自分たちを見つめている。
「父さん、この子… 」
かおるが搾り出すようにして声を出した。

