銀杏ララバイ


が、その時だった。

いきなり2人の足元から、
大きな鳥の羽ばたき音が聞こえて来た。



「銀杏丸、こっちだ。」



その音と呼応するように
男の声が聞こえた。

そして、続いて何を言っているのか分からないが、
小さな子供の声が聞こえた。


2人は驚いて下を覗き込んだ。

2人が座っていたのは
断崖のように切り立った岩肌が見えている空き地だったのだ。

そして声はその下から聞こえた。

どうやら下にも宿があるらしい。

土産物屋や旅館街とは少し離れているが、

古くて小さい、
まるで隠れ家的な宿のようだった。



「お姉ちゃん、
今、銀杏丸って聞こえなかった。」



銀杏丸と言う声で、
孝史はギナマの事を思い出し、
胸が熱って来た。

いま、その存在すら否定的に考えようとしていた孝史、

きっとそんな孝史に
ギナマが、悲しいよ、と言っているように思えた。

そして確認のためにかおるを見つめた。



「聞こえたけど、
まさか… ギナマでは無いわね。」



かおるも孝史と同じように反応したが… 
すぐに冷静に考えている。

今、鳥の羽ばたきのような音がした。

もしかしてあの鳥の名前か。

幼い子供の声もした。

下では男と子供がいるようだ。
そして下は宿屋のようだ。

行ってみよう。

まだ写真を見てもらっていない宿だから… 

孝史も同じ考えに辿り着いたようだ。


残っていたものを急いで食べ、
かおるの分もきちんと袋に入れている。

どこかでごみ箱があれば捨てる準備だ。